JOURNAL

#05 世界に伝えるアートとしての茶 / チームラボ 工藤 岳さん

今年2月、東京・お台場から麻布台ヒルズへ移転し、さらなる進化を遂げた境界のないアート群によるミュージアム。『森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)』にできた新空間において、実はEN TEAも創作の一端を担っています。今回は、チームラボの工藤さんと「EN TEA HOUSE」の誕生秘話をお届けします。


チームラボ《小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々》©チームラボ


EN TEA(以下、EN):日本を代表するアートコレクティブとして「チームラボ」はつねに新しい話題を提供しています。麻布台ヒルズも、オープンからずっと絶えず世界中からお客様が訪れていますね。その方々が、EN TEA 伊勢丹新宿店にも来られたりして世界の人と茶との出会いが広がっています。

今日は「チームラボ」のこと、EN TEAとのつながりのことを、一から紐解いていきたいと思います。


工藤さん (以下、敬称略):わかりました。

僕らは、集団的創造により、さまざまな領域のアート活動をしています。そのため「チームラボ」には異なる分野のスペシャリストが在籍しており、外部のブレーンにも自分たちにはないものを持った人が集まっています。そして、文化的背景が言語に関係なく共有できるということも大切に活動しています。

モチベーションとしては自分たちの作ったもので世界を変えることと、世界に対して何か影響を与えるということ。それらを大切にした集団です。


EN:アートワークのイメージが強いですが、他社とともに行うプロジェクトにおいてはどんなことを意識されていますか?


工藤:大事な部分は変わりません。僕ら一回こっきりの仕事はあまりないかもしれません。意外かもしれませんが、ご縁やご恩みたいなものを大切にしています。長くお付き合いすることでクライアントとも同じイメージを共有できるようになっていき、良いアウトプットにつながるという気がします。

EN TEAに関しても、そもそもは代表の丸若さんと(チームラボ代表である)猪子とのつながりがあったからですもんね。


EN:そうですね。日本の伝統文化や工芸をプロデュースする「丸若屋」でのお付き合いがはじまりで、もう17年くらいかと。


工藤:色いろと一緒にやってきた中で成功したことも、失敗したこともあって。

印象に残っているのは、「東京スカイツリー」の開業の際に新たなお土産づくりを一緒に考えたこと。その他にもアートを保存したハードウェアを納める木製の箱についてはコンセプトから共同でつくり上げ、今も続いている取り組みとなっていますね。他のプロジェクトについても、いつも実現までにはそれぞれの思想の擦り合わせが大変でしたが、どれも良い思い出、そして信頼につながっています。

そんな風に、時にはうちと目指しているものが違っても互いの理想を形にしてきました。猪子の思想哲学と同じくらいの強い思いが、丸若さんにもあり、お互いを尊重し合えるからこそさまざまなプロジェクトをやってこれたんだと思います。


EN:そうですね。


工藤:ただ一緒に作ると言っても、やっぱりアウトプットというのは言葉で表現しにくいものですし、ロジックで何とかなるものでもないから相手を信じるしかないですよね。だから、僕らは何より信頼関係が重要なんだろうと。

2016年に、(明治時代の思想家である)岡倉天心ゆかりの地にある「茨城県天心記念五浦美術館」で展示をしました。あの時に、今の茶の湯をテーマにした観客参加型の作品が生まれたんですが、当時はまだEN TEAが存在していなかったから違うブランドと一緒にやって。


EN:そうですね。当時は「丸若屋」が焼き物を手がけていたぐらい。ただ、丸若は一次産業を作り手とともにアップデートしたいという構想がすでにあったようで。ちょうどその頃に茶葉ブランドを作ろうと考えているんだと、猪子さん、工藤さんにもお話をしたんですよね。どういったお茶が国を越えて受け入れられるか? 先進的な茶づくりとはなんなのか? 色いろと議論にお付き合いいただきました。結果、人や自然とのつながり、ご縁を感じるブランドでありたいという思いでEN TEAとなりました。「チームラボ」の作品にもある円相。禅の世界観を表現する美しい思想と姿へ敬意を表しロゴマークにしました。


チームラボ《円相 - Gold Light》©チームラボ


工藤:ブランドの誕生秘話ですね。EN TEA ができたちょうど2017年に、うちにパリで開催される『MAISON&OBJET』での展示の話がきた。その時は、勝手がわかっているEN TEAと一緒にやろうと、その方がアウトプットも良くなるよねと自然な流れで決定しました。

少し補足しておくと、『MAISON&OBJET』は、世界三大見本市のひとつで、チームラボが2015年から毎年出展しているアートフェアです。


EN:コラボレーションという形で、前の作品を一緒に少しブラッシュアップしました。私たちとしては初めて作品の一部としてお茶を提供することに挑戦しました。


「Espace EN TEA x teamLab x M&O: Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup」パリ©︎ チームラボ
チームラボの公式チャンネルにて、当時の会場の世界観が伝わる動画もアップされている


工藤:作品になるお茶を作るって大変でしたよね?


EN:はい。「チームラボ」との取り組みは、いわゆる飲食業界との茶づくりとは違ったかなりイレギュラーなものですので……。美味しいのはもちろんのこと、「チームラボ」の作品を描けるお茶を作るのには色いろと苦戦しました。

お茶が画面の役割をするということで、色や淹れた時の泡の細かさを吟味するみたいな、全く新しい開発プロセスを経験しました。泡の細かさが言わば「解像度」で。ボコボコの泡だと、作品が荒れて見えるからキメの細かい泡を考慮して美しく見えるようにとか。まさに茶次第で、アートが台なしになってしまうという責任重大な取り組みでした。

さらに言えば、展示の予定動員数があまりにもすごくて……。想定される提供数が半端ない数に。どんなメニューにするかも決まらぬ内に、大量のお茶が提供できるオペレーションを開発しなければいけないというのは大変でしたね。


工藤:お茶の先生が何十人? 点てる人は一体どれくらい必要? と、一時騒然としましたよね。


EN:『MAISON&OBJET』では、会期の5日間で凄まじい量を提供しました。スタッフとして参加していたマダムが、「もう一生こんなことはやりたくない」とバックヤードでつぶやいていたのが今でも忘れられません。日本文化に触れられると思って来たのに、四六時中「Volvic」の水にティーバッグを入れシェイクして水出し緑茶を作る作業で、とても辛そうでした。スタッフそれぞれが不安を抱えながらはじめたことでしたが、作品にはパワーがありましたし、関わる人も感動できることが多々あって。最終的には強いチームが生まれ、何とかやり遂げましたね。


工藤:5日間で15,000人も来場しました。

色んな意味で人に依存せずに、クオリティが高いお茶をたくさんの人へ提供するという高度なミッションでしたよね。あの時、この世にまだなかった「作品になるお茶」が生まれたんだろうなと。パリの後は国内の数カ所で同じ取り組みをして、精度検証を繰り返しました。

そうして、『チームラボボーダレス』という一般のお客様向けの展示企画の話が実現した。「今度はしっかり喫茶としても成り立たせたい」というのがこちらの希望で、もっともっと多くのお茶を提供できる仕組みをお願いしました。


EN:また、この世にまだないものをやろうと。『チームラボボーダレス』はギャラリーではなく、テーマパークのようなものでアートを民主化しようみたいなプロジェクトとしてはじまったんですよね。


工藤:そう、最初はお台場で、EN TEAのブランドをもっと強化して、一緒に喫茶を作りましょうと。EN TEAは『チームラボボーダレス』の中で、唯一買えるアートになりました。


EN:そう言われるとそうですね。


工藤:喫茶の名前は悩みましたよね。家で楽しめる茶葉屋であり、家みたいにゆっくり楽しめるカフェでもあるということで「EN TEA HOUSE」となった。でも、作品名としてはどうだろうという話もあって……。「幻花亭」をサブタイトルとして付けました。

「幻花亭」では、お茶がなくなると、作品も消えてしまう。幻のような花を味わうという作品を楽しめます。


「Espace EN TEA x teamLab x M&O: Flowers Bloom in an Infinite Universe inside a Teacup」パリ ©︎チームラボ


EN:なかなか皆さんにお伝えする機会がなかったのが残念なぐらい、「EN TEA HOUSE」は日本でおそらく一番お茶を出している空間だと思います。お台場では、(コロナ前)年間35万杯出していましたよね。アートと日本茶との取り組みとなると、どうしても再現性の限界があり、限定的もしくは簡易的にならざるを得ない中で驚異的な数字を生み出したと思います。


工藤:35万杯出してもクオリティが担保できるお茶を作らないといけない。試行錯誤の結果、ティーバッグで出すというのに辿り着いたんですよね。


EN:はい。EN TEAを代表する水出し緑茶は30秒という短い時間でしっかり私たちの理想の味わいを、飲む人が再現できる。ティーバッグに適した茶葉や微粉末の調合から生まれた品質は「チームラボ」との数えきれない試行錯誤によって生まれたと言っても過言ではないです。

また、私たちなりに空間全体を捉えて提供するメニューやサービスを考えています。これまで体感したことのない作品や、自然の美しさを感じる作品に触れて観客の脳は覚醒し、きっと豊かな気持ちになっているはずです。その状態の人々が心身ともに充実する「余韻」「深い没入感」に浸ることができるようにと、味の整え方も独自に行なっています。

こんな作品を見たらこうなりたいよねとか、そういう想像力を高めてくれるプロジェクトだと思っています。食事において大切なのは、雰囲気やシチュエーションなんだなとあらためて考えるきっかけにもなりました。


自然の恵みをそのままいただく。EN TEAはティーバッグで淹れる茶であることを大切に、急須では難しかった茶の素晴らしさを表現する新たな抽出道具としてティーバッグを捉えている


工藤:「EN TEA HOUSE」は、他のお茶屋さんとは全く違うロジックで行き着いたお店だから、たぶん面白いと思っていただけているんでしょうね。

とにかくまだなかった体験を創造し、新しい世界や感覚を発見してもらう。それを目指してずっと一緒に作り続けた中で「EN TEA HOUSE」ができて本当に良かったなと。コロナで家時間が増えたこともあり、お店に行った人たちから「家でも飲みたい」という声もたくさんいただいたから、麻布台ではEN TEAの販売もスタートしました。「チームラボボーダレス」での体験を、オリジナルのプロダクトに変えるファクトリーの方で作品と一緒に売っています。


EN:ありがとうございます。ただ、いまだに「チームラボ」とのコラボレーションの話をすると、驚かれることもありますよ(笑)。どうも私たちの共通点がいまいちピンとこない方も多いようで。

世界の人に、新たな感動と大切なメッセージを届けること、自然を大切にしていることが共通の思いにありここまできましたよね。「EN TEA HOUSE」をきっかけとして、今ではEN TEAのデジタルコミュニケーションもサポートいただいています。


工藤:少しずつプロジェクトを積み上げていきながら、お互いの理想を叶えてきた感じです。


チームラボ 展覧会風景「森ビル デジタルアートミュージアム:チームラボボーダレス,東京」2024 東京 麻布台ヒルズ ©teamLab,courtesy Pace Gallery


麻布台ヒルズには、お台場の時にはなかったメニューもプラスされましたね。作品の一部になるので、さまざまな制約がある中で、新商品も生まれ続けている。


EN:「チームラボ」の前衛的なアート表現に対し、どこまでアップデートし続けていけるかが私たちのモチベーションになっています。


工藤:それに、僕らの自然の美しさを現す作品の思想にしっかりプロダクトデザインも寄せてくれていますよね。例えば、ティーバッグの素材。見た目もよくて、生分解性のティーバッグでSDGs的なものを実現しています。


EN:国内の取引先で言うと、「EN TEA HOUSE」はトップ3くらいに入る品質チェックの厳しさがありますから(笑)。それに加えオペレーションも……。いつも本当にオープンギリギリまで試しますもんね。


工藤:可能性を求めて考え続けるというのはずっと大切にしたいことですよね。


EN:そんな「EN TEA HOUSE」のお茶は、多くの人に届いている実感があります。ただEN TEAはまだまだ認知度が低いので……、今後は何に取り組むと良いと思いますか?


工藤:僕らもそうですが、愚直にやるしかないと思います。僕らも最初は「これってアート?」と言われながら、それでもアートだと信じてやり続けました。一生懸命コンセプトや思いを説明しながら、愚直に自分たちのやりたいことを伝えていくしかないのかなと。僕はEN TEAもお茶ではなくアートなんだと、今のまま邁進するのが良いと思います。

ひとつ、細かいことを言えば、この前もお話しましたが「Japanese Tea」より「Green Tea」と言った方が良いですね。


EN:日本茶とは言わない方が良い?


工藤:当たり前の話ですが、お茶は世界中どこへいっても同じ類ですよね。そんな中、国でボーダーを作るというのは。世界の共通言語はGreen Teaですし、ボーダーを作ることによって自分たちだけのグラウンドを作るより、もっと正直になった方がいい。ブランディング前提でものづくりをしてしまうのは、作品として考えるとどうかなって。

自然の恵みをいただくお茶は、飲むとなくなるけれど、ちゃんと体の中に残っていくものだから。成分がそのまま伝わるといいなとも思います。


EN:そうですね。私たちの理想としては、お茶が記憶を呼び覚ますものとして存在できたらと考えていて。そのために、もちろん香りにこだわりつつ、視覚的に響くものを作っていきたいと思っています。「チームラボ」のアートに触れ、人生観が変わったという人たちがまたあの世界観に浸りたいと思った時に家でも飲んでもらえるよう研鑽していきたいと思っています。

先ほど言われていたように、「愚直に自分たちのやりたいことを伝えきる」スタンスに、もっと重点を置こうと思います。私たちが目指す「未来につながる茶づくり」を、これからも一緒に考え創造していっていただけたら嬉しいです。


工藤:一緒に創造というか……、どちらも自分たちのフィールドにおいて「世界の価値観を変える」。この辺りを一等して伝えていきましょう!

今「チームラボ」のステージが世界中に増えていっているので、それとともにEN TEAも拡散して、一緒に体験する人の価値観を一人でも多く変えていきたいなと思っています。


EN:力強い。私たちも工藤さんを見習っていきたいと思います。



PROFILE / 工藤 岳
アートコレクティブ「チームラボ」のコミュニケーション・ディレクター。早稲田大学文学部卒業後、タイ、シリア、レバノン、ヨーロッパ各国を放浪。スウェーデンでゲーム雑誌の編集に従事した後に、チームラボのメンバーとなる。
https://www.teamlab.art/jp/




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