JOURNAL

#01 日本人らしい美的感覚とは / 開化堂 八木 隆裕さん

EN TEAの茶づくりに欠かせない「人」。ブランドのアイディアの源でもあるキーパーソンと、彩り豊かな茶の時間について語ります。第1回目はEN TEA創業当時からのおつきあいである、手づくり茶筒の老舗・京都「開化堂」の八木 隆裕さんです。




EN TEA (以下、 EN):創業から150年近く、当時から変わらぬ伝統と広い視野を持ってさまざまな取り組みをされている「開化堂」さん。あらためて、今、八木さんがどのような思いで家業を見つめているのかお聞きしてもいいですか?


八木さん (以下敬称略):そもそも僕の親父には「伝統工芸を継ぐよりもサラリーマンをしとけ」と言われていました。父の代でバブル崩壊があったり、大変なことが多々あってあまり明るい業界とは言えなかったんでしょうね。僕自身はずっと英語を勉強してきたので、それが活かせることをしようとは決めていて。大学卒業後、京都のデューティーフリーショップのようなところで働きました。その頃から伝統工芸を海外の方に売るということをしていました。販売商品にはうちの茶筒もあったんですが、普通に売れていくのをそこで目の当たりにしたんです。購入者はアメリカの方々だったんですが、それを見て、僕、茶筒はもっと遠くにいけるんじゃないかなと思ったんです。


EN:アメリカの人だから、ですか?


八木:実は、親戚にアメリカの人がいまして18の頃にうちの茶筒を持ってアメリカに行ったんですが、その時は全く興味を持ってもらえませんでした。アメリカの人にこの良さは伝わらないんだとどこか諦めていた気持ちが、一気にひっくり返りました。世界に伝えられる可能性があるなら、僕は家業をやっていけるかもしれないと…、家に戻ることを決めました。「世界中に開化堂を広める」というのが、最初にできた目標ですね。


EN:その目標に向かうために何か意識したことはありますか?


八木:どこで生まれ育ったかによって文化が違うので、それぞれの人の背景を考慮しながら、どう「開化堂」を暮らしに忍び込ませ根付かせていくかということです。「開化堂」だから買うというよりも、いいなと思ったものの裏を見た時にはじめてうちのだとわかるみたいなことがたくさん起きればいいなとずっと思っています。


EN:カフェを始めた理由にもつながりそうなお話ですね。


八木:うちのものが国内外で展開できるようになり、色んな文化の中にも普通に工芸は存在できるんだとわかりました。そんな中、僕の子どもたち、一番上だと今20歳になるんですが、彼らを見ていたらまだ若い人たちには伝わりにくいものなんだなと。若い人たちの文化にもどうしたら忍び込めるかと考えて、カフェだと思ったんですね。工芸は、昔から今も変わらず「見て覚える世界」なんです。僕自身も親父からそう教わりました。ただ、感覚は言葉化されていないもので、手から手へとつながれていくもの。それこそが僕たちのフィロソフィーだと思っているんですが、それって見て触れて経験をしてもらわないと伝わるわけないですよね。若い人にカフェという媒体を通して工芸を感じてもらう場所を作ることが必要だと思いました。




EN:カフェの店づくりで大切にしていることは何でしょう。


八木:店舗で朝日焼をはじめ色んな工芸品を使っているんですが、みんなには「工芸は」と、最初に言わないようお願いしています。若い人たちは先に言ってしまうと一歩引いてしまうので。絶対的に心地いいものを用意はしているので、使う人には自然と「これってなんで飲み口いいんだろう?」と気になってもらえたら嬉しいですね。今の人たちは気になったら深掘りしていくと思うので、調べてはじめて工芸を知ることで若い人の文化に忍び込ませることができるんじゃないかなと思ってて。EN TEAのお茶も、そういう意図にすごく合致していると思っていますよ。


EN:ありがとうございます。


八木:ティーバッグですごく簡単だけれども、いい味が出るという二面性がある。若い人たちが一番取り入れやすいものから入れて、その先に本物の味わいがあるからいいですよね。いいお茶を飲んで、いい茶葉をしっかり保存しておきたいとなった時に茶筒が必要になってくるかもしれないし、もっと美味しく飲むためにはカップが必要になってくるかもだし。他の道具にも目がいくようになっていく。工芸とは何かから入るのはハードル高いですもんね。あとEN TEAのガラス瓶、いいですよね。お茶をガラス瓶でシェイクしてから飲むという。あの一連の流れがより楽しみやすくしてくれていると思います。


EN:そういったお茶を飲むスタイルも大切にしたいと思っています。今年の春に伊勢丹新宿店をオープンさせましたが、それを機にお茶の時間をどう楽しんでもらうか、もう一度考えました。合わせてブランドリニューアルも行いましたが、何かを変えようとしたというよりも原点に戻った感じです。しっかりと、日常に彩りを与える茶の時間を伝えていけたらなと。色いろと考える中で、あらためて開化堂さんから学んできたことは多く大切なことだと気付かされました。軸となる変わらない品々をいかに磨き続けていくか、開化堂を通して八木さんの仕事への姿勢に触れることで多くのヒントをもらっています。


八木:僕はずっと(EN TEA代表の)丸若さんとお仕事をしていて心がけていることがあります。丸若さんと僕のやりとりにおいて、工芸や作り手の世界を知っているからこそ同じ感覚でいいもの・ことを共有できていて、話が早いのですが、周囲にはちゃんと説明や段階を追ってやっていかなきゃなと。わかる人だけの感覚でお仕事を進めてしまったら、誰に届けたいものなのかわからないものづくりになっちゃいますから。ビジネスではなくてお商売ぐらいだと思うんですけれども、やりたいことをうまく社会実装できるようにどう落とし込むかが大事だなと思っています。僕らは色んな人とコミュニケーションを取れる言語で伝えていかなければいけない、日常のものを扱っていますもんね。




EN:とくにお茶に詳しい方に届ける場合とそうでない場合とありますから臨機応変に伝え方を考えなれけばなりません。一方通行な伝え方にはならないよう心がけたいですし、お茶が嗜好品である前に日々に寄り添うものであってほしいんです。八木さんは、今コミュニケーション方法に対しどんなところを大切にしていますか?


八木:僕の親父が言っていたことで「相変わらずやってはるな、が一番すごい」ということを大切にしています。“相変わらず”深い言葉ですよね。中身が変わっていることはわかるんだけども、普段通りに見える。あえて言っている、“相変わらず”だと思うんですね。以前は、時代に合ったすごい人を広告・宣伝に起用すればものが飛ぶように売れていましたよね。今はそうもいかない、それぞれの人の志向に合わせお話をしなくては売れない時代です。そういう時代がきたけれど“相変わらず”でいられるようにしたいと思っています。


EN:素敵なエピソードですね。私たちは、内輪ノリでやってしまうことはよくないと思って気をつけています。コミュニティがすぐに作れる時代だから、そこで売れるものを考えるのもいいのかもしれないけど、お茶はたくさんのコミュニティを自由に行き来するものであってほしい。何にしても視野を広く持てるものの方が、人生にとって楽しくて必要なものになるような気がしています。さらにEN TEAのコミュニケーションの面でいうと、 やはりティーバッグをメインの品にしたことには誇りを持っています。現代の生活に合うお茶について、客観的に考えてあるべき姿を実現したかったのです。自分たちの伝えたいことと、みんなが求めていることが握手するポイントをどう作るかをこれからも考えていきたいと思います。

「開化堂」さんの茶筒に関しては、何を入れてもいいんですと一言を添える優しさに惹かれます。そういう提案は誰でもできることではない。やはり他との大きな違いだと思っていて。私たちの言葉で言えば「風通しがいいもの」でしょうか。風通しがいいってことは、気持ち良く使えるとか、そういう風に見えるとかだと思うんです。すぐ手が伸びるような、それぞれの生活に馴染むようなものを提案できるかどうか。これどう使おうかな?だけど持っておきたいなのようなものは残っていかないですもんね。


八木:いかに発信源のベクトルを置くかですよね。最近海外の人が京都には多いので色んな文化の人と接していますけども、時間軸を短絡的に考えた時に自分の人生だけを考えている人が多いですね。発信源のベクトルの先が、自分自身になっている場合が多い。ただ、僕ら工芸やEN TEAがやっているお茶だとかはベクトルの先が「ひと」ではなく「もの」だったりするわけで。ベクトルの先が「ひと」で自己表現になっている手作りのものと、ベクトルの先が「もの」で職人としての美意識を感じるものの差がありますね。

茶筒を使うお客さんやお茶を飲むお客さんと、それらを作る職人のちょうど中間地点を作ることが、多分僕らのやっていることなんじゃないかなと思います。そういうものづくりをやっていくためには、まず時間軸を伸ばして考えないといけないですよね。自分の代だけで儲けようということであればベクトルの先を自分に向けてものづくりしていけばいいと思うんですが、僕らは違う。孫やひ孫につなぐことができるものとは何かを考えながらものづくりをしているんだと思うんです。だから「今これを作るべきなのか」をまず考えます。次やその次の世代が修理してでも使いたいものか、実際に修理できるものなのかも考えます。

またアメリカの人のことになってしまいますが、経営者は大体自分軸でものを見ていますよね。会社は大きくしていつか売るものだとか。アメリカ人と話すと、「自分の孫のために会社をやっている感覚なんてなかった」と言われたりもしますよ。そんな中、丸若さんと話していると、そういう先のことまで考えてものづくりしているのがわかります。それに伊勢丹さんで、多くの方に届けると同時に、その場で相互方向のやり取りの回数を増やそうという難しいお題に取り組んでいるんだと思いました。僕は、そういったEN TEAのものづくりの姿勢に惹かれているからご一緒しているんだと思います。今回のオープンにあたっては、これまでにはなかった仕事も経験させてもらいましたね(笑)。




EN:新宿店ではただ「開化堂」の商品を扱わせていただくだけでなく、そもそもEN TEAが都心の百貨店でどうあるべきなのかという対話から意匠に至るまでご一緒いただきました。本当に面倒なお願いを…、引き受けてくださりありがとうございます。具体的なことで言えばオリジナルのキャプションボードやキャッシュトレーを作っていただいて。それ以外にも多くの素材や合わせ方にまで八木さんの美意識が散りばめられています。

最後まで難儀したのは看板でしたね。今回美意識の象徴として選んだのは“真鍮“。なので当初は看板も真鍮を使うつもりでいたのですが、八木さんと相談してあえて使わないことを選びました。その瞬間に店の立ち位置が定まったと思います。ご一緒していただいたことであくまでさりげない“風通しの良い”空間を生むことができました。


八木:良かったです。


EN:こうした潔さはブランドを立ち上げた頃には意識できなかったことです。どうしても自分たちの意思というかエゴがありました。ですが、例えば「開化堂」や「kaikado Café」に訪れ触れることで、よそ行きの提案をする前に、何よりも関わる人たちがその品や素材を楽しむこと。その思いをどうしたら共有できるのか?そこが大切なんだと学びました。自然体の美しさとでもいうのでしょうか。学ぶのは勝手だと思うのですが、あらためて今回の無理難題をなぜ引き受けていただけたのですか?


八木:EN TEAを見てきて、何か大事な時なんだなとは感じました。そこで僕にできることは何だろうと考えた時に、あの空間においては丸若さんの思いを汲んだ理想のものを作るということだったんだと。あとは、不特定多数の本当にさまざまなお客様がいらっしゃる百貨店なので、そこから「開化堂」がではなくて、日本の工芸のあり方・考え方が GAFA(「ITプラットフォーマー」と呼ばれるほどの巨大企業であるGoogle・Apple・Facebook・Amazonの総称)に忍び込んでいってくれたらと思ってるんですよ。GAFAをひっくり返すんではなく、いつの間にか忍び込んでいって、ものづくりはやっぱり日本に学びに行かなきゃみたいなことになるといいなと思っています。日本で見たあの空間、あのものに影響を受けたという人がもっと増えていけば日本の勝ちだなと思っていて。こちらも良い機会だったなと感じていますよ。


EN:はい、伊勢丹のあの場所は単に食品フロアという枠に収まらない、日本を代表する一つの「食」の街だと感じています。その大きな街の中で小さい店ではありますが、美しさや優しさを感じてもらえたら嬉しいと思っています。八木さん、どうぞこれからも宜しくお願いします。


写真は、茶筒 真鍮の(手前から)新品・5年、30年物。時間をかけて生み出されるその美しさに惹かれる。


PROFILE / 八木 隆裕
茶筒の老舗「開化堂」6代目。大学を卒業後、3年間の会社員生活を経て「開化堂」入社。新商品開発や海外向けのSPを精力的に行う。2012年より、京都の若手職人とともに国内外で伝統工芸を広める活動『GO ON』をスタート。京都のものづくりに触れる機会を増やすべく、工房の近くに「Kaikado Café」も展開する。
https://www.kaikado.jp/
https://kaikado-cafe.jp/




関連商品はこちら




茶と茶簡 水出し緑茶
¥ 8,800(税込)

EN TEA 伊勢丹新宿店、オンラインストアでは、「水出し緑茶ティーバッグ」と開化堂の「茶簡」の化粧箱入セットをお取り扱いしています。
「茶簡」は、「お茶を飲む生活を簡単(シンプル)に考えて」といったメッセージが込められた「開化堂」の新しいライン。
従来の二重構造ではなく、その技術力で可能となる「一重構造」で作られており、開化堂の茶筒の密閉性もありながら、軽くて持ち運びもしやすい茶簡です。

※「茶簡」についてのさらに詳しい説明は以下URLより
https://intojapanwaraku.com/craft/149045/

BACK TO LIST