JOURNAL

#02 一服の茶を楽しむためには / 上出長右衛門窯 上出 惠悟さん

第2回目は日本を代表する色絵磁器・九谷焼の窯元「上出長右衛門窯」の上出 惠悟さん。2024年1月より、上出さんに制作をお願いした器と茶のセット商品の販売がスタートします。今回は茶を通したつながりが深い二者で、あらためて彩り豊かな茶の時間とは何かについて考えます。




EN TEA (以下、EN):私たちの中では、上出さんは「上出長右衛門窯」=伝統的、「上出瓷藝(かみでしげい)」=前衛的という、二つの面を持っている方だという印象です。昔から(2007年頃)歴史を繋ぐ家業と、新たな挑戦をする個人のクリエーションを異なったかたちで取り組んでいらっしゃいますよね。


上出さん (以下、敬称略):なるほど……面白いですね。ただ、最初は家業を少し手伝いながら自分個人の作品を作るというかたちで、大学を卒業してすぐに窯に入ったんです。その時期にEN TEAの代表の丸若さんとも出会って、世間に対して九谷焼をどうアピールしたら良いかとか、「上出長右衛門窯」から明るい話題をどう届けたら良いかなどを一緒にプロジェクトとして考えたりしていました。実質的に家業を継いだと言えるのは、本格的に窯の経営に関わるようになった2013年からですかね。この年に「上出瓷藝」を立ち上げ、今のかたちに少しずつなっていったのだと思います。

※プロジェクトの一例
http://maru-waka.com/project_jaime/
http://maru-waka.com/project_skull/


EN:実はEN TEAができたきっかけのひとつとして、上出さんの存在があります。丸若が上出さんの窯でいただいた「丸八製茶場」の献上加賀棒茶が、とても印象的だったという。当時では珍しい浅煎りの棒茶の味わい、一般的な焙じ茶にはない透明感と品のある味わいに感銘を受けたようです。私たちには、このような“豊かな茶をさりげなく飲む日常”を多くの人に伝えられたらという思いがあります。日本茶好きの上出さんに、あらためてお聞きしたいことなのですが、日本茶はどんな存在ですか?





上出:「上出長右衛門窯」は、ずっと割烹食器や茶器を作ってきた窯元なので、日本茶は小さい頃から身近なものでした。

ちょっと私事になりますが……最近、一軒家を改修して新しく住み始めたんですよ。それまでずっと実家だったんですが、ようやく自分の家を持つことができて。実家にいる時は、朝から日付が変わるまでずっと会社で仕事をして、寝に帰るだけというような生活でした。大学を卒業してからずっとそんな生活を……17年くらいしていたんですよね。それが器を作る人としてどうなんだろうというのは前から思っていて。「作る」「売る」はやっているんだけど「使う」があまりできてないところに、ずっと引け目を感じていました。すごく大事なことはわかっていつつも難しく、今僕の暮らしが変わったことがこれからの窯を変える契機にもなるんだろうなと感じています。


EN:何かすでに変化がありましたか?


上出:日常的にお茶を飲む機会が増えました。今まで実家の部屋では、お湯を沸かすとか、急須を使うとか、そういう時間を取れずに長年水ばかり飲んでいて、今ようやくお茶を飲める環境になり、めちゃくちゃ嬉しい(笑)。最近ハマっているのは、紅茶です。ロンドンに行った時に買ったものがまだたくさんあるので、色々味を変えてみて楽しんでいます。柚子とお茶と一緒に蒸らすのがすごく今大好きで。あと、レモンティーも飲むようになりました。防腐剤不使用のレモンに、ハチミツをちょっと入れて飲むと美味しいですよ。冬、喉が痛くなることとか多いと思いますし、皆さんにおすすめです。


EN:今の暮らしになって、お茶を楽しむ時間がよりリアルになったということですよね? 昨今、お茶に限らず「我に返る時間」について、あらためて大切に感じている人はきっと少なくないと思います。私たちもお茶屋として、お茶を飲む行為として捉える前に「楽しいひと時」という素直な喜びとして捉えてもらえたらと考えながら、日々ものづくりをしています。そう考えると、場所や道具を楽しむ気持ちが自然と大事に思えてきますね。


上出:そう、心がぐちゃぐちゃとした感じでお茶を飲んでも結局美味しさは感じにくいですもんね。僕も光の色や空気など、景色が大切だと思います。光の差す部屋に落ち着きつつとか、庭の緑を眺めつつとか、そういう暮らしのベースとなる空間がしっかりした状態にありつつお茶を飲むことが重要。自分にとって心地良いのがすごく大事だなと思います。その時間を、より良くしてくれるのがお茶ですよね。




EN:まさに、そうですよね。その「景色」「心地良さ」について、一人ひとりが自分にとって良いものを、器にしてもお茶にしても選んでもらえたらと思います。そして、できることならそうして選んだものを同じデニムを履き続けるみたいに繰り返し使うことも体験していただきたいです。目新しさとは違う繰り返しの中で生まれる心地良さもあるかと思います。

EN TEAではこれまで「新しい価値を提供できるか」を大切に励んできました。ただ最近は、ひとつのものを掘り下げることで気付く魅力を大切にすることも意識したブランドになろうと。お茶を飲むという行為は文章を構成する句読点のようなもの、そういう昔からある茶の文化を今しっかりと伝えられたらと取り組んでいます。1月にリリースする、茶と器のセットはそういうことを考えリニューアルしたものになります。EN TEAの中で、とくにコンセプチュアルなラインですが、今回ずっと使いたくなる湯呑みをと思いご相談させていただきました。


上出:「日茶」と「月茶」のセットになるものとして、汲出碗と蕎麦猪口を作りました。


EN:美しい目覚めのひと時を提案する「目覚めの茶器セット」、上質な眠りのための一服を提案する「眠りの茶器セット」の器ですね。「上出長右衛門窯」のスタンダードな商品をリサイズ、絵柄をそれぞれお茶のイメージに合わせて考えていただきました。


上出:「眠りの茶器セット」の汲出碗は、窯の初期からある馴染み深い器です。実は色んな使い方ができるもので、家ではお正月に食べるぜんざいの時とか、親戚の子どもたちのごはん茶碗代わりとか、ファミリーパックのアイスクリームをつぎわける時とか、小鉢代わりに使っていましたね。


EN:蕎麦猪口は、昔からあるのですか?


上出:蕎麦猪口は、形としてはあっても日の目を浴びるものではなかったんです。

5、6年前くらいにウチの窯も蕎麦猪口を作ろうという話になり、展開し始めたんですよね。割烹食器で蕎麦猪口に似た“筒向付”というのもありますが、やっぱり蕎麦猪口は割烹食器とは言えないのではないかと積極的ではありませんでした。ただ、やっぱり蕎麦猪口は便利ですよね。僕はコーヒーも好きなんですが、汲出碗でコーヒーを飲むのには違和感があるんですが、蕎麦猪口だとちょうどいい。蕎麦猪口としてはもちろん、お惣菜入れにも使えますし汎用性が高くて良いですよね。


EN:そうですね。汲出碗も蕎麦猪口も、色んな使い方があり魅力的です。「上出長右衛門窯」ではクラシックな器である汲出碗、「上出長右衛門窯」ではモダンな器である蕎麦猪口、この二つがとても「上出長右衛門窯」らしい解釈でアウトプットしていただけたなと思っています。



「ちょうえもん招猫 鈴鳴り(左)」と「二寸ちょうえもん招猫(右)」。「八寸丸皿 百果刻文(下)」と「白狗向付(上)」。ひとつでも良いが、ふたつ揃うとまた違った味わいを楽しめる。


「上出長右衛門窯」の器となると、“その凛とした佇まい”から少し敷居の高さを感じてしまう方もいるかも知れませんが、本当はすべての品が愛らしさを感じさせてくれます。新しく作った器はいい意味でより親しみやすく仕上げていただけました。細かい話になるのですが、面白さのひとつとして蕎麦猪口の二重になっている高台があると思っています。こちらは?


上出:高台(器に底につけられた台)については少し難しい話になりますね(笑)。蕎麦猪口を集めている方だとよくご存知だと思いますが、蕎麦猪口と言えば古伊万里で。さらに言えば、古伊万里の蕎麦猪口には蛇の目高台と呼ばれる二重構造の高台があるんですね。

一般的な高台は、焼く際に底面の釉薬を剥がすので少しザラザラしています。それだとテーブルやお盆が傷ついてしまうからということで考えられたのが蛇の目高台です。二つ高台があってテーブルにつく方には、釉薬を付けています。

江戸時代の蕎麦猪口やなます皿などはこの蛇の目高台が多いんですよね。僕からすると、これはもう過剰な気使いのような気がするんですけど……。実際に、高台はそんなにテーブルを傷つけたりしませんしね。なぜここまで気を使う必要があったのか、でもその手間や工夫に、なんだか惹かれるところがあり。いざウチの窯でも蕎麦猪口を作ろうとなった時には、この高台を再現したいと考えていました。


EN:要るか要らないかではなく、ですね。


上出:それでやってみたんですが、こだわりが強過ぎたのかマニアック過ぎたのか、あまり売れませんでした(笑)。

それで結局定番化したのが、日本料理屋さんからの注文で作ったという古い形のものでした。この蕎麦猪口の高台がまた変わっていて、蛇の目高台なんですが、二重になった高台の両方がテーブルにつく不思議な構造なんですよ。もはや、なんでこの形が生まれたのか、よくわからないんです(笑)。二つの高台の高さを揃えるのも苦労しますし、そもそもそこに機能が何もないんです!ただ、間違って伝わった伝言ゲームのような、古伊万里で誕生して九谷で間違った進化を遂げてしまった感じがなんとも味わい深く感じてしまい、これはこれで面白いと、それで今回のEN TEAの蕎麦猪口もこの形でやろうと決めました。


蕎麦猪口 奥が古伊万里風で手前が(二つの高台どちらもテーブルにつく)「上出長右衛門窯」の蛇の目高台。


EN:色々とお考えいただきありがとうございます。お茶屋としては、一服の時間をより豊かなものとしてくれる中の絵柄の仕上がりも素敵だなと。日茶を飲む蕎麦猪口には、茶の花の開いた様を。月茶を飲む汲出碗には、茶の花の蕾を描いていただきました。上出さんの一面として「斬新」というイメージがあるかと思うのですが、伝統的な背景を大切にした「懐かしさ」が魅力的です。これから長い間、色褪せないフレッシュさとスタンダードさを感じさせてくれる器です。上出さんらしいユーモアと可愛らしさがありながら、リアルな茶の花を彷彿とさせる写実的な仕上がりですよね。




上出:僕は茶の花について詳しくなかったので、EN TEAの皆さんに教わりました。茶の花は下を向いているのがすごく特徴的ですよね。


EN:繊細で独特な雰囲気と控えめで清楚な姿は、花好きの中でも好む方が多いそうです。今回は、製造責任者である野邊が花の姿についてご説明しました。彼は、石川で茶づくりを学んだこともあり縁が深いので、上出さんと一緒に作ることができたのは普段とは違う喜びになったと思います。また、花の絵とともに使い勝手にも工夫していただきました。


上出:二つの器どちらにも、湯量がわかる目安として内側に一本線を引きました。




EN:話は変わりますが、上出さんはこれまで色んなお茶に出会ってこられたと思います。ぜひ一度お聞きしたかったのですが、今EN TEAに対しどのような印象をお持ちですか?


上出:そうですね。丸若さんらしい現代感覚、もしくはちょっと先の未来感。なんと言うか、空気感や時代の波みたいなものを掴んだり切り取ったりするのが上手だなと昔から感じています。そしてそこには割り切りがある印象です。

とくに“土に還るティーバッグ”がいいですよね。先ほど割り切ったかたちと表現したのは、丸若さんや野邊さんは「日本茶と言えばリーフ」「リーフと言えば急須で飲む」という道を来た人じゃないですか。それなのに、今ティーバッグを軸に提案している。その潔さがさすがだなと感じています。たぶん、急須で飲むとなるとお茶が広まりにくいんだと思うんです。そのことは陶磁器業界の怠慢さもあるのでしょうが、僕は、そういう割り切り方をあんまり上手にできないタイプなんですよね。ついリーフにこだわっちゃうと思います。お茶にこだわりが強い周りの人とも、よくEN TEAのお茶を飲んで「美味しいね」という話はしますよ。その時、皆さんが驚くのは水出し緑茶で、振って飲むのがいいねって。それに普通の水出しの緑茶って一晩とか寝かせなきゃいけないですよね。今飲めないのか〜と、残念な気持ちになるやつ。あれがなく、30秒で飲めてしまう。しかも美味しい。もう色々突破していてすごいと思います。


EN:もちろん、急須でお茶を飲むのが当たり前に戻って欲しいという気持ちは大切にしています。ただ飲むという選択肢として、ディーバッグには大きな可能性があると思います。味わいについてもティーバッグらしい美味しさがある。

皆さんが急須を持って、リーフを楽しんで欲しいという強い思いがありつつ、主力商品をティーバッグとしています。まるで禅問答みたいで矛盾しているように感じてしまうかもしれませんが、お茶を飲む中でいかに成功体験というか喜び体験を増やすかということがEN TEAの役割かなと思っています。だからこそ急須で飲むお茶が良いとする方々にも満足してもらえるものを目指しています。


上出:僕は昔、個人の丸若さんと一緒に作品を作ったり、器のしつらえを考えたりする仲で“ものづくりパートナー”でした。それがいつの間にか茶器を作る「上出長右衛門窯」とお茶屋の「EN TEA」という風になっていましたね。意外な展開ではありつつも、なんか人生って面白いなと。




EN:EN TEAの生まれた背景には、上出さんのような作り手や工芸、もっと言えば日本文化との関わりが強くあります。作り手の抱えてる課題や問題、それらを改善し見えてくる先のことを現場でリアルに学ばせていただいてきました。

EN TEAが、日本らしい伝統の文化を未来へ伝えるために色々とお役に立てればと思っています。なかなか一朝一夕にはいかないことですが、これからも上出さんからさまざまなお話を聞かせていただき、良きパートナーであり続けられたら嬉しいです。


上出:こちらこそ、引き続きどうぞよろしくお願いします。



PROFILE / 上出 惠悟
東京藝術大学卒業後、1879年創業の九谷焼窯元である「上出長右衛門窯」の後継者へ。職人とともに数多くの企画や作品の発表、デザインに携わる。2013年、自身が代表を務める「上出瓷藝(かみでしげい)」設立をきっかけとして、本格的に窯の経営に従事。個人としても作品を制作し、精力的に個展を開催している。
http://www.choemon.com/
https://www.kamide-shigei.com




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