JOURNAL
ENと禅 美しき日々をならう #03 日々の調和
一筆走らせた刹那、空虚な窓がやさしく霞む。
まぶたの裏に満ちてゆくのは、心ほどく香りの束。
始まりも終わりもない。いま、ここに在る自分。
身の内に泡立つ波は、洗い流してしまえばいい。
一服に時を委ね、懐かしい深淵に辿り着く。
美しい味との邂逅。
そしてふたたび、呼吸を思い出す。
禅の思想を学びながら、豊かな日々を紡ぐ新習慣を紐解いていく本連載。教えてくださるのは、普門寺住職の吉村昇洋さんです。私たちが過ごす日常は、さまざまな要素の調和によって成り立っています。そこで第3回は「日々の調和」をテーマに、ふとした瞬間に調和を見出すヒントを探ります。
「上がり続けるギアをニュートラルに戻すのが坐禅です」
KEY WORD
FLAT / CLEANLINESS / ESSENTIAL / NEUTRAL
FLAT
日々の食事を作る際、食材選びで心がけていることは何ですか?
まずは食べてみること。以前、産直市で紅菜苔(こうさいたい)という野菜を見つけました。私は珍しい食材を見つけたら必ず買うようにしているので、もちろんその時も買って帰りました。とりあえず生で食べてみると、これがとても美味しい。そこで、ある精進料理の会で提供したところ、生産者さんに「生で食べるの!?」と驚かれました。紅菜苔というものは、火を通していただくのが一般的なのだそうです。でも私はそんなこと知りませんから、「まずは食べてみてください、生の方が美味しくないですか?」と。すると生産者さんも生食の美味しさに感銘を受けておられました。今の時代、インターネットで検索すれば調理法はすぐに出てきますが、例えば「湯がいてえぐみを取る」と書かれていたら、どれくらいえぐいのか、まずはそのまま食べてみることが大切だと思います。
私たちの命を繋ぐ食材は、自然と人の手で生み出されたもの。精進料理にお肉は使いませんが、お釈迦様の時代の戒律では、布施の肉食は禁じられていません。「自分のために殺されたところを見ていない肉」「自分に供するために殺されたと聞いていない肉」「自分に供するために殺されたと疑う理由のない肉」であれば、食べることが許されているのです。私もその場合はありがたくいただきます。素晴らしい恩恵に感謝しながら、常に食材とフラットな視点で向き合う。その調和が積み重なることで、豊かな暮らしが開いていくのではないでしょうか。
CLEANLINESS
調理器具を選ぶポイントは?
精進料理の定義の1つに「浄潔(じょうけつ)=食材や器の衛生管理をする」があるように、清潔な状態を保つことは仏法に繋がります。そのため、私はシンプルで洗いやすいデザインを重視しています。また器具自体の洗いやすさだけではなく、掃除しやすい環境を整えることも重要です。例えば、よく使う器具は吊るして収納し、その他は棚にしまって表に出さない。そうすればいちいち物をどかす必要がなく、調理の合間でもサッと作業台を拭くことができます。自己と身の回りを清潔に保つことで、日々の雑音はきっとやわらいでいくはずです。
ESSENTIAL
日々の暮らしの中にある茶の基準値を上げるため、EN TEAでは本格的な味を手軽に楽しめるティーバッグを採用しています。昇洋さんは普段、どんな時に茶を飲みますか?
茶道と禅とは深い関わりがありますが、私ども曹洞宗では、抹茶を飲む頻度はそこまで高くありません。修行道場ではほうじ茶でしたが、自分のお寺に戻ってからはもっぱら煎茶ですね。食事中や休憩中など、ほぼ1日中飲んでいます。そもそも仏教にお茶が取り入れられたのは、修行の眠気覚ましという意味合いが強いんです。特に坐禅中はどうしても眠くなりますからね。煎茶はそこまで強くありませんので、日常的にリフレッシュさせてくれる大切な存在です。
NEUTRAL
坐禅と瞑想の違いはどこにあるのでしょうか?
「何か」の目的のために行うのが瞑想で、坐禅はその「何か」を手放す在り方です。車のギアで例えるならば、常にニュートラルな状態ですね。生きていればオートマティックにギアは上がり続けますが、それをニュートラルに戻す営みが坐禅と言えます。
私たちは言葉に支配されています。なぜなら思考というものは言葉によって形成されるからです。「血液型がB型だからマイペース」といった全く根拠のない言葉でも、それを認識して自己にレッテルを貼ることで、行動様式までもが導かれてしまいます。しかし「感じる」ことに言葉はいりません。そこにあるものをただ感じればいいのですから。坐禅の心得は「追わず払わず」。生まれた思考を追わず、邪魔なものだと払わず、ありのままを受け止め、五感を開き、調和する。そうした感覚を日々の中に増やしていけば、言葉の影響力が下がり、レッテルが剥がれ、自分を縛っていたものから少しずつ解放されていくのではないかと思います。
PROFILE
吉村昇洋(よしむら しょうよう)
1977年広島県生まれ。曹洞宗八屋山普門寺の住職。公認心理師、臨床心理士として精神病院や大学の学生相談室のカウンセラーも務める。駒澤大学大学院で仏教学を、広島国際大学大学院で臨床心理を学び、曹洞宗大本山永平寺の修行を経て現職に。著書に『心とくらしが整う禅の教え』(オレンジページ)、『精進料理考』(春秋社)などがあり、禅仏教の教えや精進料理を伝えている。
http://www.zen-fumonji.com/

自然と人、言葉と記憶、温度と色彩—。何気ないピースが調和することで、かけがえのない日々が積み重なっていくのだと感じました。EN TEAでは、茶をとりまく全ての事象の調和を目指しています。ティーバッグに植物由来の生分解性素材を使用しているのもその1つ。私たちの小さなピースがいつか大きな調和に繋がることを願い、これからも「美しい味」の茶を届けていきます。


