JOURNAL

私たちが考える NEW TEA TIME

新たな茶の価値をより多くの人へお届けしたいという思いから生まれた、EN TEAのブランドコンセプト「美しい味の茶」。ここでは私たちが大切にしているメッセージに込める思いをお伝えするべく、EN TEAの人がEN TEAを語ります。




美とは調和のこと
日々のリズムが整う豊かさ
自由でおおらかな茶の世界



美とは調和のこと

エジプト・カイロの喫茶風景


丸若:お茶は楽しみ方がとても幅広い。だから何気ない日々に豊かさを感じさせてくれる、生活の彩りになるのだと思います。これまで日本の茶文化を世界に向け発信する場に色々と携わってきましたが、どうしても異文化同士の取り組みの場合、どこかの文化性に寄せていってしまい一方的なコミュニケーションとなることが多い気がします。EN TEAはもっと日本茶本来の良さとしてある多様性をみんなのスタンダードにできたらと考えていて。世界中、どこにいたとしてもお茶の本質とは調和を生み出すものですし、そこが一番伝わる表現が何かを探求したいと思っています。

野邊さんは、日本ではなくエジプトのカイロでお茶の世界に魅了されお茶に携わるようになった経緯がありましたよね。自分とお茶の捉え方が似ているなと感じました。

野邊:カイロで触れた喫茶の文化がはっきりと印象に残っていて。全く異なる人種や宗教の中で、マイノリティーとして暮らすことで感じた孤独感がお茶の存在ですくわれたというか、和んだというか。それがきっかけとなり、お茶に興味を持ったのだと思います。

丸若:そもそも、留学でカイロを選ぶのはめずらしいですね。

野邊:中高生の頃、イスラムが背景にあるような大きなニュースがいくつかあったことによって漠然とそこに興味を持ったんですよね。そして大学の時近くに古いモスクがあって自然と通うようになった気がします。実際にムスリムの人と話したり勉強する中でどんどん解像度が上がっていって、もっと知りたいと思いました。そういう流れで現地で、よりリアルな生活を知りたいと思ったことが留学した理由の一つです。



日々のリズムが整う豊かさ



丸若:多くの日本人にとってイスラムの文化はなじみがないですよね。そんな場所に観光でもなく、いきなり長期で…。カルチャーショックは大きかったですか?

野邊:カイロはイスラムの国の中でも近代的で住みやすい。そう聞いて選んだ土地でしたし、実際にそうだった部分が多く生活にはあまり困らなかったです。でも、イスラムの教えや習慣を大切に生きているので最初は理解できないことばかりでした。礼拝や教えの厳格さの度合いは違うにしても、誰もがそれを軸とした暮らしをしており、日本とは全然違いました。

丸若:一日に数回、祈りの時間があって、どこにいても、その時はみんなが一斉に一つにまとまり祈りに調和する。日本をはじめ、他の信仰と祈りへの考え方の違いがありますよね。

野邊:数ヶ月経って、生活も慣れてくると現地の人たちが話していることをだんだんわかるようになり 、コミュニケーションが楽しくなってくる反面、攻撃的で差別的な言動がやけに気になる時期がありました。ただそういう人たちでも、礼拝の時間がきたらみんな同じ方向を向いて、地面におでこをあてて礼拝している。その光景は心に残っています。イスラムの前ではみんな同じ、神様へ向き合う姿勢がしっかり身についている。こんなに従順な側面もあるのかと驚いたというか。信仰心だけではなく、目に見えない大きな存在に向き合う姿、そこにある空気そのものが美しいと感じました。

丸若:イスラムは、日の出や入り時間、季節、その場所にそった祈りの決まりがありますよね。だから自然との向き合い方も、私たちにはないものがあります。イスラムは切り替えが上手な人々だと思うんですよね。無意識的にリズムがある暮らしって、本来人間にとって重要だと思いますし、それができているのは素晴らしいと思う。それにイスラムは私たちからすると色々な制約があるように感じますが、そうしたことも影響してなのか人との交流を深める際にお茶をうまく取り入れていますよね。お茶がすごく習慣化されていますし、日々のリズムを刻む役割をなしている気がします。

野邊:そうですね。生活の一部として朝から晩まで色々なシチュエーションで紅茶を飲んでいました。僕は街中に点在している茶の空間が好きでした。路上に椅子と台だけのようなところや、屋台のようなところ、テラスカフェのようなところなどがあって好きでよく通っていました。そこではみんな水煙草を吸っていたり、談笑したり、一人で静かに過ごしたりと様々で、とはいえ一体感みたいなものはその土地ならではのものとしてあって。人士や宗教の面では疎外感を感じていたけど、茶の空間では自分も受け入れられている感じがあり、通っていたのかもしれません。

丸若:宗教観や文化の境界線をなくすという感覚は興味深いですね。欧米やアジア、ヨーロッパの感覚は少しだけ理解できますが、イスラムの文化は新たな気付きが多くあります。EN TEAが大切にする茶の姿に通ずるものがありますね。「個」の豊かさだけでない、他との調和から生まれる「本質的な豊かさ」を大切にした茶がそこにはある気がします。



自由でおおらかな茶の世界



丸若:今後ますます向かっていくグローバル化と深刻な分断化の時代で、自分はお茶の可能性を感じています。お茶は味わいを追求することよりも、どう人に寄り添えるかが大切なことだとあらためて感じているので。これからもEN TEAのお茶は、どこで飲んでも心が落ち着き安らぐものであってほしいと思います。⾝のまわりで起きている物事を一服によって穏やかな気持ちで眺められるようにすること、自由でおおらかな茶の世界を提供していきたいですね。

野邊:EN TEAというブランドを通して、色々な多くの人に飲んでいただける機会があるからこそ、常に飲んでくれる人のことを考えて、お茶を作っていきたいと思いますね。カイロでの紅茶のように、生活の一部として多くの方の生活にEN TEAのお茶や他の色々なお茶が根付いていってくれたらと思いますし、そこを目指してお茶や人に向き合っていきたいと思います。お茶に深く関われば関わるほど、定番といわれるような、多くの人に美味しいと言っていただけるようなお茶を作ることの難しさは感じていますが…。

丸若:お茶が尊ばれる時代から、日本の味わいとして多くの人々が手にすることができるものとなり、その先の成熟したところへと。どう現代へ更新していくべきなのか?難しい挑戦だと思います。人と人との縁の輪を繋ぐ存在としての茶。それに加えて自身の心身の状態を整え、人だけではなく環境とも調和がとれた存在。自己表現という点に重きを置かず誰にとっても「美しい調和」を感じてもられるブランドとして取り組んでいきたいですね。


野邊:お茶の歴史は長い年月で各地の風土に合わせて変わりながらも受け継がれ、発展してきたものだと思います。お茶と一言でいっても、多様なお茶があって、その生まれた経緯を一つ一つ見ていくと、その時代に生きる人の暮らしと調和がとれたものが今も作り続けられていることが多い。それが繰り返されてきた結果今も多様なお茶が文化として残っているのだと思っています。そういった伝統の最も新しい部分に自分たちが関わっているのだと思うと身の引き締まる思いがします。

丸若:EN TEAがティーバッグにこだわっているのもそうした考えの表れの一つだと思っています。わけ隔てなく多くの人々に楽しんでもらいたい。日本古来の様式美を味わう茶ももちろん魅力的です。その上で私たちは茶独自の魅力に迫っていけたらと考えています。そういう意味でペットボトルの茶のような手軽さからは学ぶことが多いですよね。これからも既成概念にとらわれずに取り組んでいけたらと思います。


野邊:先人たちが繋いでくれたお茶の伝統から学びつつ、EN TEAとしてこの時代なりの調和の取れたお茶は何なのか常に考えながら今の人達やお茶と向き合っていきたいと思います。

丸若:一つ一つを野邊さんや、みんなで繰り返し積み上げていけたら嬉しいです。



PROFILE
丸若裕俊/EN TEA代表、コンセプトディレクター
2010年、日本のものづくりをアップデートする丸若屋を設立。国内外で様々な取り組みを多くの作り手と共に行う。2017年、「美味しいではなく、美しい味わい」をテーマに茶葉ブランドEN TEAをスタート。

野邊翔平/EN TEA 製造責任者
兵庫県出身。大学卒業後、京都や石川の製茶会社に勤務。茶についてより深く知りたいと考え、長崎で新規就農を試みるも、途中でEN TEAと出会い2018年に加入。現在まで、製造開発担当として従事。